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王立ローゼンベルク学園
それは、来るべき大災厄に備えてファーレン王国が設立した研究機関にして教育機関。
フレイアの森に中に聳え立つ白亜の建物。
首都ファンブルグの東門を出てひたすらまっすぐ、フレイア大陸中央部にそびえる山脈の麓にその学園は位置している。
そこでは五勇者にまつわる種々の事柄-五勇者にまつわる歴史、五勇者の持っていたと言われる戦闘技術、大災厄の謎など-の研究を行うかたわら、この世界で生きていくための技術-戦闘技術や生産技術-を授ける教育機関としての役割を担っている。
学園に激震が走った。
学園の自治組織「生徒会」の最高権力者である生徒会長が、こともあろうに行方不明になった「犬」を追って姿を消したのだ。
この日、生徒会室内は混乱していた。
まず、理由の説明もなく「第2種警戒態勢」が取られ、副会長キャヴェに率いられた親衛隊が回廊へ向かった。
「第2種警戒態勢」とは、人的災害に対する警戒態勢としては2番目に高度なレベルで、例えば抗議デモに対する警備を想定してもらえばよかろう。高い治安を誇る学園内では、これまでほとんど発令されることはなかったレベルなのだ。
ちなみに、さらのその上の第1種警戒態勢となると・・・。
これはもう内乱に近い状況になる。
相手も重火器を所持している前提で、警備する側にも相当の武器装備の携帯が許可されるが、ここでは置いておいて・・・。
それから、しばらくして厳重に警備されているはずのロビーに手負いのモンスター-しかもレベルの高いフォレストガードが-が侵入して暴れまわった。
突然のことで呆然とする生徒会執行部たちの前で、生徒会の目の上のたんこぶ、ヒヨコ隊の左之助、斎(いつき)がそれを瞬殺した。
その後、ヒヨコ隊のリーダー慧さまが、もう一人の副会長菜月になにやら書類を差し出し、署名捺印を迫った。
生徒会長室へ印鑑を取りにいった生徒が、慌てて飛び出してきて菜月に紙切れを渡すと、それを読んだ菜月が絶叫した。←今ココ。
混乱を極めた学園の運命はいかに!
菜月の絶叫からきっちり10分後。
「号外でぇ~~す」
学園のエントランスでは、アルカネットを中心に数人の女子生徒が号外を配り始めた。
「なんかあったの?」
「また経験値テーブルの倍増とかじゃないよな・・・」
「げぇぇええ・・・」
受け取った号外を読んだ生徒たちは紙面に釘付けになり、次の瞬間、一様に叫んだ。
「なにぃぃぃいいいい!」
「なんですってぇぇぇえええ!!」
紙面にはでかでかと文字が躍っていた。
「生徒会長 出奔!!」
☆
4人が時計塔の通用口から外に出ると、既に西の空は夕焼けに染まっていた。
まもなく17時の鐘が鳴るだろう。秋の陽は「釣瓶落とし」というが、本当にあっという間に真っ暗になってしまう。
「なんか忘れてるような気がしちゅうんけんどなぁ・・・」
男は背後を振り返り、しきりに首をかしげていたが、
「はぁ・・・お腹すいたねぇ」
「はっ、そういえば今日はおやつを忘れてました・・・ああ、ショック・・・」
「武士は喰わねど高楊枝・・・」
3人とも、まったく気にせず本館へ向かった。
エントランスに入ると、あちこちに人だかりが出来ていた。
「なんかあったのかしらね?」
慧さまが斎に尋ねた。
「あっちでもこっちでもいろいろあるんですねぇ」
こわこわっと斎が肩をすくめ、
「・・・情勢不安・・・」
左之助がひとりごちた。
「はや、どうでもいいこらぁもしれんけどな?」
3人の後ろからついてきた男が声をかけた。
「うん?」
「おそらく、こりゃあー別々に起こっちゅう事じゃーのうて、さっきのことに関連してると思うがぜよ?」
男は落ちていた号外を拾い上げ、一瞥すると慧さまに渡した。
「ほらっ・・・」
「ええっ『生徒会長』しゅ、しゅ、しゅっぱつ?」
「しゅっぽん・・・」
「ええっ!会長さんって『亀』だったんですかぁ!!」
「それは『すっぽん』・・・」
「どうりで噛み付いたら離れないと思ったわ!」
「・・・雷が鳴っても離さない・・・」
「生き血を飲むと長生きするらしいよ?」
「ううぅ、生き血は気持ち悪いですぅ」
「大丈夫、ワインや炭酸で割って飲むのが一般的・・・」
「そういえば、昔、生き血のワイン割りを、二人分飲んで鼻血出した男子いましたね・・・」
「それはマムシ!精力剤じゃないっちゅうの・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
声がだんだん小さくなって、3人は後ろを振り返ると非難がましい目で男を見た。
「・・・なんで突っ込まない・・・?」
慧さまは男に近づくと上目遣いで詰問した。
「いや、放っておいたらどこまで突き進むか興味があったのでの」
パコーン!!
目にも留まらぬ速さでナップザックからハリセンを取り出して殴った。
「な、何をするんじゃ!」
「ボケをスルーしようなんて100年早いわっ!」
「そんなこといわれても・・・」
「拾えっ!どんな小さなボケでも拾わんかいっ!」
驚いたことに慧さまはいつになく真剣で目には涙さえ浮かべていた。
「ああ・・・」
涙を浮かべて力説する慧さまに圧倒されて思わずコクコクと頷いた。
「ボケはなぁ、ボケは拾われなければ浮かばれないのじゃぁ・・・」
「お、お姉さま・・・」
「筆頭!・・・熱い魂、確かに伝わったぞ・・・」
ひっしと抱き合う3人の姿を見ながらも、しかし男は何か違うと感じずにはいられなかった。
「で、しゅっぽんって、なんのことですか?」
顔をあげた斎が慧さまに尋ねる。
「汽車のことじゃない?」
「♪汽車、汽車、シュッポシュッポ、シュッポシュッポシュッポンポン・・・♪」
「なんだか裸みたいで、やーね」
「それはスッポンポン・・・」
男が力なく突っ込むと
「そう!やればできるじゃない!」
慧さまはニカッと笑ってVサインを出した。
☆
「まあ、早い話が逃げたんじゃないかと書いてあるわけ」
慧さまが号外を手にして解説する。
「これによると、妹も犬と兄を追って姿をくらましたそうよ」
「あのどエスの・・・」
「あの女子(おなご)から『イヌ』と呼ばれたい奴はたくさんいるだろうに・・・」
生徒会長の妹は「どエス」として有名で、特に一部のマニアたちからは絶大な支持を集めている。
ブラコンとの噂もあり、口さがない連中は「学園のヘンゼルとグレーテル」等と揶揄していたが、どうやら本当だったのかもしれない。
ただし、二人が追っかけていったのは「幸せの青い鳥」ではなく「犬」らしいが・・・。
「これからどうなるんでしょうね?」
斎がつぶやくと、
「選挙なのですっ、選挙が行われるのですっ!」
「「「「!」」」」
びっくりした4人が振り返ると、号外を配り終えたアルカネットが立っていた。
彼女が手がけるのは、報道、ラジオ放送に旅行ガイドの作成etc.etc.・・・。
多数のイベント企画にも参加していると言われている。
彼女こそ、学内のありとあらゆるメディアを押さえている学園きっての情報通(マルチメディアンヌ)なのだ。
「ああ、びっくりしたぁ、アルカさんかぁ・・・」
「ヒヨコ隊のみなさん、こんにちはなのですっ」
「相変わらず情報早いわねぇ」
「ニュースもプリンも鮮度が大事なのです」
「あはは、なるほど・・・」
アルカネットはヒヨコ隊の面々を見渡し、男に目を留めた。
「むむっ、こちらの方は・・・」
「あ~、こちらは・・・むぐっ」
「な、なんでもないの、うちの新人にちょっと校内の案内をね・・・」
斎の口を押さえて、慧さまが説明する。
「本当ですか~?」
「ホント、ホント・・・。ねぇ?」
「あ、ああ・・・」
頷く男。
「クンクン・・・なんだかヒヨコ隊のみなさんから、特ダネの匂いがするのですが・・・」
鼻をヒクヒクさせながらアルカネットが顔を寄せる。
「あはは、ないないって・・・」
慧さまは手を振る。
「ところでさ、さっき選挙って言ってたけど?」
「はいっ、生徒会規則によると、会長が執務できない場合は副会長が代行する決まりになっているのですが、これには上限があって最大15日なのです」
「ほほう」
「この間に、次期生徒会長を選出しなければなりません」
「公示から選出までの期間を考えるとあっという間ね」
「そうなのです」
「会長の椅子を狙っている連中は、すぐにでも動き出すわね」
「詳しくは明後日発行の今週号を読んでいただくのがいいのです」
「ちゃっかりしてるわね」
「さすがアルカさんです」
「うむっ」
「これで、発行部数が伸びるので、お姉さまにも褒められますっ」
「お姉さんってあの『歩く毒薬庫』・・・」
「おっと、それ以上は口にしない方が身の為なのです」
「・・・あわわわっ。は~い」
慌てて口を押さえる斎を苦笑交じりで眺めながら、
「まあ、何か動きがあったら教えてよ。こっちからも情報流すからさ」
慧さまが手を差し出すと、
「わかりました。持ちつ持たれつなのです」
しっかりと手を握り返したアルカネットはピョコンと礼をして去っていった。
「これは忙しくなりそうね」
慧さまはにやっと笑った。
「なんぞ嫌な予感がするのぉ・・・」
男は首をすくめた。
☆
「タイトルに偽りありだっ!」
黒猫5兄弟(ブラザーズ)の長男、アインは天に牙を向けた。
「今回は、俺たち5人が中心の話ではなかったのかっ!」
「在哥哥上安稳(兄者、落ち着くのだ)」
いきり立つ兄を次男ツヴァイが諌めた。
「そうそう、まだまだ後半はたっぷりとある」
手にしたナイフを磨きながら三男ドライが言う。
「古来より真打は最後に登場するもの・・・」
花瓶から一輪の薔薇を引き抜いた四男フィーアがそのまま腕を振ると、薔薇はまるでダーツの矢のように飛んでいった。
「うふふ、楽しみだねっ」
顔めがけて飛んできた薔薇を持っていた絵筆で優雅に払いのけ、五男フュンフが無邪気な笑みを浮かべる。
「ふっ、見てろ、後半は俺たちが大活躍するぜっ!」
アインはまっすぐに指をさして吼えた。
☆
「おいっ、具合はどうだ?」
枕元に座ったユカリコが声をかけると、包帯にくるまれたキャヴェは、それでも笑みを浮かべて首を振った。
「そっか・・・・・・まあ気にせずしっかり休むんだな・・・」
ユカリコは灯りを消して病室のドアを閉めると、ふっとため息をついた。
「お疲れ様・・・・・・」
暗闇の中を遠ざかるユカリコの足音が小さくなり、やがて静寂だけが残った。
暗闇のまま後半に続く
3月2日「第3話 くろねこの秘密-後篇-」をアップしました。
3月1日「第3話 くろねこの秘密-前篇-」をアップしました。
好きな作家:今野緒雪、樹川さとみ、支倉凍砂、神野オキナ等ライトノベル系作家が好きです。
好きなマンガ家:天野こずえ(ARIA、あまんちゅ)、石井まゆみ(キャリアこぎつねきんのまち)
コンチェルトゲートフォルテでは、Yukarikoというキャラ(マジシャン)をメインに使っています。