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王立ローゼンベルク学園
それは、来るべき大災厄に備えてファーレン王国が設立した研究機関にして教育機関。
フレイアの森に中に聳え立つ白亜の建物。
首都ファンブルグの東門を出てひたすらまっすぐ、フレイア大陸中央部にそびえる山脈の麓にその学園は位置している。
そこでは五勇者にまつわる種々の事柄-五勇者にまつわる歴史、五勇者の持っていたと言われる戦闘技術、大災厄の謎など-の研究を行うかたわら、この世界で生きていくための技術-戦闘技術や生産技術-を授ける教育機関としての役割を担っている。
「生徒会」とはローゼンベルク学園の生徒によって構成される自治組織で、学園を運営するために理事会から様々な権限を委譲されている。
生徒会は決議機関としての生徒総会、執行機関としての執行部、司法機関としての審査委員会から成り立ち、相互牽制作用を果たすことになっている。いわゆる三権分立というやつだ。
しかし近年、執行部以外は形骸化する傾向が強まり、全ての権力が執行部に集中しているのが現状である。つまり、生徒会執行部が、規程を作り、その規程に従って取り締り、その規程に準じて裁くという、最高権力組織となってしまった。
生徒達の中に、「生徒会=執行部」と誤解しているものが少なからずいるのはそのためである。
生徒会執行部室、通称「生徒会室」は、本館エントランス横の時計塔の頂上にある。
生徒達は時計塔を見上げてこう呟く。
「学園の行く末はその塔に束ねられた」と・・・。
時計塔の最上階フロアに着くと、正面には大きなカウンターがある。
カウンターには目的ごとに受付窓口が用意されている。左奥から各種申請書類の受付、証明書の交付、旅券の発行、規程を違反したものに課せられる反則金の納付、学内施設の鍵や備品の貸出及び返却、その他陳情の受け付け等もここで行っている。
大きさはそう・・・中核都市の市役所程度の広さを想像してもらえば間違いない。
その奥には窓を背にして机がひとつあり、たいていは事務方の責任者である執行役員が座っている。カウンタの右手にあるドアを開けると執行部会議室。左には執行部役員室とその奥に生徒会長室がある。
その、執行部役員室。
二つ並んだ副会長席の前に立つ男女生徒。
「・・・というわけで、ヒヨコ隊が動き始めました」
「時計塔への侵攻を開始した模様です」
踵を合わせ背筋を伸ばして報告する姿は、この組織が軍隊並みの規律で縛られていることを思わせる。
「ふん・・・」
斥候役の生徒からの報告を聴いた菜月は隣に座るキャヴェに尋ねる。
「どう思う?」
「どうもこうもないでしょ?会長に報告の一択で・・・」
「ガセという可能性はないかしら?」
キャヴェの返答を聞かなかったことにして、
「盗聴には気づかれていないはずであります!」
「ガセだろうがなんだろうが、会長に報告しなきゃダメだよ・・・」
菜月はオロオロするキャヴェに取り合わず、
「ふーん」
右手で前髪をいじりながらなにやら思案していたようだが、
「第2種警戒態勢を・・・」
「第2種?血迷ったの?相手はヒヨコ隊だよ!会長に知らせなきゃ?」
「会長は多忙です」
キャヴェの抗議を一言で切って捨てた。
二人のやり取りをおろおろと見ていた生徒達に、
「何をしてるの?私は『第2種警戒態勢を・・・』と言ったはずだけど?」
「ははっ」
敬礼して執行役員室を飛び出すふたり。
「・・・まったく・・・」
ため息をつくキャヴェに、
「手柄のひとつも上げないと、次期生徒会長は『妹君』に禅譲されてしまうのよ!キャヴェはそれでもいいの!?」
自分の意思をあまり見せない菜月だが、同級生のキャヴェの前では感情を露わにすることが多い。もちろん他に誰もいないとき限定なのだが・・・。
「ぼくは・・・生徒会長になんかなりたくないから」
「ふん、私は嫌っ!実力ならともかく、現職生徒会長の妹だからという理由で次期会長だなんて認めないっ!」
「はぁ・・・」
何度目かのため息。
こうなってしまったら菜月には何を言っても聞いてもらえない。
かといって、菜月の意に反して勝手に動くのも得策ではない。
自分たちの役目は、一階から階段を上がってくるヒヨコ隊を阻止して会長の目に触れさせないこと。
そのためには、第2種警戒態勢の最前線で自分が指揮すること。
瞬時にそう判断したキャヴェは、
「わかったよ・・・ぼくが出撃(で)るよ」
「頼んだわよ」
「ああ・・・」
愛用の大剣(ソード)を手に取った。
(あーあ、何も起こらなきゃいいけど・・・)
一度も叶えられたことのない空しい希望だが、今回も神に祈らざるを得ないキャヴェだった。
☆
一方、サークル棟のヒヨコ隊部室。
「さーて、悪の生徒会長を討伐して、○ルー○○○タル○○○を奪取するわよっ」
「お姉さま、目的が違います!」
「・・・その目的は○ルー○○○タル○○○を使って○○○○を一つにし、○○に対する○○として○○することである」
ぼそぼそ呟く左之助。
「やめて下さい!危なすぎて、ほとんど伏せ字にしないとならないじゃないですかっ!」
斎(いつき)が悲鳴を上げると、
「お、おんしらは・・・」
男は頭を抱えた。
学園の近くで記憶を失った男を保護した斎は、男の一時滞在のため、入館証に生徒会長印を貰いに生徒会室に向かうのだが、塔の途中に出現するモンスターの襲撃から男を護る為に慧さまと左之助に同行を頼んだ。
妹の頼みはさておいても、生徒会室に乗り込む口実と生徒会長をおちょくる機会を、慧さまが見逃すわけがない。
二つ返事で同行が決まった。
今も鼻歌を歌いながら、なにやら背嚢に詰め込んでいる。きっと「キャンディ」や「ホイッスル」等、面白グッズ等であろう。
一方、左之助は一振りの剣-いや刀と呼んだ方がしっくりくるかもしれない-を背負う。
いつもと同じ表情だが、口の端がほんの少し上がっているのは、喜んでいるのかもしれない。
サークル棟を出た一行は、中庭を通って時計塔に向かった。
先ほどよりも人通りが増えている。
中庭のイリウス像の前は待ち合わせをする生徒が集まっていた。
「なんでここに人が集まっておるきに?」
「ここは目立つから待ち合わせによく使われるんですよ」
「でも、二人で見詰め合っちゅう女子(おなご)もおるが?」
「ああ、あれはね・・・」
含み笑いをする慧さま。
「うふふ、あれは違うんですよ」
「?」
「ここは、スールの契りを交わす絶好の場所なんだよねぇ~」
「スールの契り?」
「上級生のお姉さまと姉妹の約束を交わすことです。お姉さまと私もそうなんですけどね」
「なんじゃ、おんしらはまっことの姉妹じゃないがぜよ?」
「血の繋がった姉妹ではないよ」
「詳しくは映画をご覧になると・・・」
その時、像の前に立っていた男子生徒が、クエストから帰還したパーティに駆け寄った。
「先輩っ」
「おうっ」
「クエスト、お疲れさまっしたっ」
90度のお辞儀をする。
先輩と呼ばれた男は、頭を上げた男子生徒に向かって頷く。
そして、制服の着こなしを見て
「おいっ、貴様」
「は、はいっ」
「タイが曲がっておるぞ、俺が直してやろう」
「ははっ、ありがたくありますっ」
上級生が、顔を赤らめ直立する男子生徒のタイを直す。
「うむっ、これでよい」
見つめあう二人を沈みかけた夕陽が赤く照らしていた。
「心温まる光景ですねぇ」
うっとりした面持ちでその様子を眺めている斎に、
「・・・」
男は何も答えず首を振った。
「な、何?なんで心底嫌そうな表情してるんですか・・・?」
「斎ちゃん・・・」
「お、お姉さままで!?」
「悪いこと言わない・・・、それだけは人前で言わないようにしようね・・・」
「ふえええええ」
姉からのダメ出しに滂沱の涙を流す斎であった。
「あいかわらず賑やかね」
「あっ、Yukarikoさん」
「ふぇっ、あっYukarikoさんだぁ・・・」
今泣いた斎がもう笑っている。
「おお、あの人は何者じゃ?」
男は左之助に尋ねるが、左之助までもがうっとりと見とれている。
透き通るような白い肌に腰にまで届きそうな漆黒の黒髪。切れ長な細い目は神秘的な笑みを浮かべている。書類を抱えた姿は、有能な秘書のようにも見える。学生たちとは違う大人の雰囲気を持った女性だ。
「こんにちは、みんな」
「「「こんにちは」」」
期せずして声が揃った。
思い出したように、斎が
「こちらは、学園の職員をされているYukarikoさんです。保健室にいたユカリコさんのお姉さまなんですよ。で、こっちが空からを落ちてきて記憶を失った人です」
「あらあら」
「本当にきれいなお人だ」
「あらあら、うふふ・・・」
「Yukarikoさんには、ファンが多いから、口説こうなんて考えると命が危ないかもよ?」
「そんなことは・・・」
男がブンブンと首を振ると
「あらっ、そんなに否定されるとそれはそれで悲しいわね」
「いやぁ・・・まいったぜよ・・・」
頭をかく男は、冷ややかな視線が自分に集まっていることに気づいていない。
「ところで、みんなそろってクエストに行くの?」
「いえっ、ちょっと生徒会室に印を貰いにいくんです」
斎はこれまでいきさつを説明した。
「久々に生徒会長サマをおちょ・・・いや、挨拶もしなきゃと思って・・・」
慧さまがそういうと、
「あんまりいじめちゃダメですよ」
Yukarikoは片目を瞑って微笑んだ。
「あん方はお幾つくらいなんかのう・・・」
女性陣のやりとりを見ていた男が誰にともなくつぶやくと同時に、
ヒュン
と、男の頬を掠めて何かが飛んで行った。
ブスっ
という音に、恐る恐る振り向いてみると、銅像のコンクリートの台座にプラスチック製のボールペンが深々と刺さっている。
「あらあら、手が滑っちゃったわ」
Yukarikoは顔に微笑みを張り付けたまま、凍りついた一同の横をすり抜け、台座に刺さったボールペンを抜いた。
「気をつけなくちゃね、お互いに・・・」
そう言って、
「それじゃあ、ごきげんよう・・・うふふ」
と笑いながら去って行った。
その場に残された4人は、Yukarikoの後ろ姿が見なくなるまで髪の毛一本動かすことができなかった。
固まったまま後篇に続く。
3月2日「第3話 くろねこの秘密-後篇-」をアップしました。
3月1日「第3話 くろねこの秘密-前篇-」をアップしました。
好きな作家:今野緒雪、樹川さとみ、支倉凍砂、神野オキナ等ライトノベル系作家が好きです。
好きなマンガ家:天野こずえ(ARIA、あまんちゅ)、石井まゆみ(キャリアこぎつねきんのまち)
コンチェルトゲートフォルテでは、Yukarikoというキャラ(マジシャン)をメインに使っています。