[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
王立ローゼンベルク学園
それは、来るべき大災厄に備えてファーレン王国が設立した研究機関にして教育機関。
フレイアの森に中に聳え立つ白亜の建物。
首都ファンブルグの東門を出てひたすらまっすぐ、フレイア大陸中央部にそびえる山脈の麓にその学園は位置している。
そこでは五勇者にまつわる種々の事柄-五勇者にまつわる歴史、五勇者の持っていたと言われる戦闘技術、大災厄の謎など-の研究を行うかたわら、この世界で生きていくための技術-戦闘技術や生産技術-を授ける教育機関としての役割を担っている。
学園内部にはいろいろな組織・団体が存在する。
クラスもそのひとつだし、課外活動の集まりもそのひとつ。
例えば、「体育会」。
これはスポーツ系の課外活動をする団体が集まった組織である。
歴代の生徒会においても「体育会」は多くの生徒会長を輩出し、学内を掌握してきた。
ちなみに現在は「くろねこ5(ブラザーズ)」というイケメン集団が「体育会」の実権を握っている。
「くろねこ5(ブラザーズ)」は、総合格闘家の長男アイン、東洋拳法の達人で師範も勤める次男ツヴァイ、陸上競技のスペシャリスト三男ドライ、剣を持たせたら敵なし四男フィーア、球技からマイナースポーツまで幅広くこなす末っ子のフュンフの5人。
彼らは血を分けた兄弟なので結束も固く、5人が集まるとディスナクゥバでも退けられるのではないかと噂されている。
さてこのたびの現役生徒会長失踪騒動に、いち早く反応し動いたのは「くろねこ5」率いる「体育会」だったのである。
ここは保健室。
「ユカリコさん、キャヴェの様子はどうでしょうか?」
病室から戻ったユカリコに、菜月は蒼褪めた顔で尋ねた。
「はっきり言って・・・よくはない」
ドカッと漢らしく椅子に座ったユカリコは天井を向いて答えた。
「特にひどいのは右腕だ。モンスターの爪でえぐられ、神経がずたずたにやられている。腱の部分の損傷も大きい。骨はボルトで固定するにしても、小指一本動かすことができるかどうか・・・」
「そ、そんな・・・」
「それに脚も・・・膝から下は粉砕骨折といって、骨が粉々に砕けている。ボルトで云々というレベルではない
「おお・・・神様・・・」
「まあ、それらはまだましかもしれん」
「ま、まだあるんですか!!」
菜月は悲鳴を上げる。
「ああ・・・言いにくいのだが・・・・・・」
ユカリコはキョロキョロとあたりを見渡し、菜月に向かってクイクイと指を曲げた。
菜月が顔を寄せると、耳元に囁く。
「実は、××が△△△でな・・・・・・。つまり○○が◇◇◇◇わけだから・・・」
菜月の顔はみる間に真っ赤になった。
「そ、それって・・・・・・?」
「うむっ、●●としても■■■たと言わざるを・・・」
「%&$#!!」
菜月は、立ち上がって言葉にならない悲鳴を上げた。
「そこでだ・・・」
ユカリコは、菜月の肩を押し下げて椅子に座らせると、顔を寄せ真剣な目で菜月を見つめた。
「キャヴェを助けたいか?」
「も、もちろんですっ!」
大声を上げたことにも気づかず、
「あんなに苦労してきたのに、こんなことで◎△■×に・・・」
といいかけて、にんまりとしたユカリコの表情で何かに気づいたのか慌ててぱたぱたと手を振ると、
「と、とにかく助けてください、私に出来ることならなんでも・・・」
ユカリコは眼鏡の奥の目を細め、
「よしっ!よく言った。なあ、キャヴェは本当にいい奴だ、オレもそう思う。だから、なんとしても助けてやろうじゃないか?なぁ?」
コクコクと頷く菜月に、
「それじゃあ、お前にしか出来ない仕事を命ずる。この書類に・・・」
机の引き出しから一枚の書類を取り出し、菜月の前に差し出した。
「キャヴェの字体を真似てサインしろ」
「ええっ」
紙とユカリコを何度も見比べる。
「なんですか?この書類は・・・?」
「・・・同意書だ」
「・・・同意書・・・ですか?」
「うむっ・・・同意書だ、この書類にサインすれば、キャヴェは助かるぞ?」
「・・・・・・」
うつむいて書類を凝視する菜月にユカリコは声をかけた。
「・・・さぁ、どうする?」
「・・・ユカリコさん・・・」
目を伏せたまま、
「本当に助かるんですね?」
「・・・約束しよう」
「わかりました・・・サインします・・・」
「よしっ!よく言った!!」
ユカリコは頷きながら、
「ここに・・・そうそう・・・」
サインを確認すると折りたたんで白衣のポケットにしまった。
「そうと決まったら準備だ・・・」
さっと立ち上がるユカリコに、菜月が、
「ユカリコさん・・・」
俯いたまま声をかけた。
「うん?どうした?」
「さっきから、何だか嫌な視線を感じるのですが・・・」
「視線?」
「・・・それに、なんか音が聞こえませんか?『フシュー、フシュー』って・・・」
「・・・・・・」
あたりを見回すユカリコ。
「まるで・・・猫が威嚇するような・・・」
ぶるぶる震える菜月。
ぷちっ
その時・・・・・・灯りが消えた。
みぎゃぁぁぁあああああ!!
暗闇に悲鳴が響き渡った。
☆
アルカネットと別れた4人はサークル棟に向かっていた。
中庭を折れ、研究棟の前に差し掛かる頃、それまで斎(いつき)とたわいない話をしていた慧さまが突然立ち止まった。
「人もいなくなったし、そろそろいいんじゃないの?」
振り返らずに誰ともなく声をかけると、
「さすがはヒヨコ隊の慧さま・・・」
「令人吃諒的是弥正注意我個的様子」(我々の気配に気づいていたとはね・・・)
「使えるのは左之助だけではなかったということか」
「そうでなくっちゃ・・・」
「だからいったでしょ?侮れないって・・・ふふふ」
頭上からバラバラの声が返ってきた。
「現れたわね・・・くろねこ5!!」
「えっ?」
「おお!」
「な、なんぜよ?なにが起こっちゅうがや?」
と、同時に4人の周りに5つの影が振ってきた。
年の頃は15~16くらいか。170cm前後の身長は成長期だということを考慮すれば悲観するものではない。
細身で色黒、精悍な顔つき。同じデザインだが違う色の服を着た5人の青年、いや、少年たちが5人を取り囲んだ。
赤い服を着た少年が一歩前に出た。
「俺はアイン、くろねこ5の長男だっ」
「いつも左之助が体育会の方々にはお世話になっています」
慧さまが、ぺこりと頭を下げると
「あっ、いやっ、こちらこそ・・・」
アインも頭を下げた。今どきの若者にしては意外に律儀である。
「んで、わざわざ体育会を牛耳る『くろねこ5』が揃ってこんなところにお出ましとは?」
顔を上げた慧さまの顔つきは、悪徳商人を思わせる笑みが張り付いていた。
「ずばり言うけど」
アインが切り出した。
「生徒会長選挙の手伝いをして欲しいんだ」
「う~~ん、やっぱりそれか・・・」
慧さまが渋い顔をする。
「如何喝?干喝?」(どうだ?やってくれるか?)
ツヴァイが一歩前に出た。
「わたし的には積極的にどこかの後押しはしたくないのよねぇ・・・」
「後押しなんか期待していないさ、あんたたちがほかの陣営に協力しなきゃそれでいいんだ・・・」
ドライが身も蓋もないことをいってしまったが、
「それも確約できないなぁ・・・」
気にしているわけではないようだ。
「ふっ、力づくで言うことを聞かすなんて野暮なことはさせないでくれたまえよ?」
フィーアが言うと、
「んじゃぁさ、勝負しようよ!負けたら勝った方の言うことを聞くっていうのはどう?」
ニコニコしながらフュンフが提案する。
「う~~ん」
慧さまはしばらく腕組みをして考えていたが、
「わかったわ。その勝負、受けましょう」
「お、お姉さま?」
「・・・・・・」
「お、おいっ、ええんかいの?」
「大丈夫!私に考えがあるの・・・」
慧さまは、5人に振り返ると、
「勝負は・・・」
チラッと時計を確認し、
「今から10分後ね。決着の方法は、相互指名制の1vs1のデュエルにするわ。相手より先にDUフィールドから出た方が負けってことでいい?もちろん本人が戦闘不能になった場合と理由の如何に関わらず指名された者以外が乱入した場合も負けね」
「相互指名制?ふふっ、本当にいいのかっ?」
アインが大声を上げた。
「ええ、構わないわ」
慧さまはまったく動じない。
「坏,但是我個全力斗争。唖然不做可是寛恕好?」(悪いが俺たちは全力で闘う。容赦はしないぞ?)
ツヴァイも畳みかけた。
「しつこいわねっ、いいと言ってるのよ」
「可哀想にな・・・」
ドライが横を向いた。
「負けたら勝った方の言うことをひとつ聞くだったね?」
フィーアが念を押す。
「そうよ」
「こっちの希望は選挙への全面協力だよ・・・」
とフュンフ。
「わかった」
「OK・・・じゃあ10分後に対戦相手を指名してDU開始だ!」
アインの言葉に、
「了解・・・」
慧さまは頷いた。
「お、お姉さま、本当に大丈夫なんですか?」
不安げに尋ねる斎。
その時、突然あたりが暗くなり、慧さまにピンスポットが当たった。
「えぇ~、『くろねこ』の5人は力を合わせて、体育会の幹部にのし上がってきましたぁ。確かに尊敬すべき点は多い。しかし、勝負は勝負です。 えぇ~…残念ながら今回は、決定的にこちらに勝ち目はありません。
そういう場合は、彼ら自身に諦めてもらいましょう。5人全員相手は無理でも、1人を落とす事は簡単な事です。」
ちょっと鼻にかかったしゃべり方で慇懃に話す慧さま。
「実はこれから、ちょっとした罠をしかけてみようと思います。 問題はですね、ターゲットを誰にするか。誰ならば一番簡単に、こちらの思惑に乗ってくれそうか・・・・・・。
えぇ~、責任感の強い彼(アイン)か、求道家の青年(ツヴァイ)か、個人主義の彼(ドライ)か、え~挑戦的なこの男(フィーア)か、それとも愛らしいムードメーカー(フュンフ)か・・・。 えぇ~わたし・・・・・・はい。『ヒヨコ隊の慧さま』でした」
「な、なんだぁ?」
「是什公?」(何だって?)
「あぁん?」
「どこかで聞いたような・・・」
「ぼく『愛らしいだって』きゃっきゃっ・・・」
「気にせん方がいいぜよ、気にしちゅうと術中にはまるきに・・・」
男は言ったが聞こえていたかどうか・・・・・・。
☆
「さて、そろそろ始めましょうか?」
「お、おう・・・」
「ルールを決めたのはこちらだから、先に指名していいわよ?そのくらいハンデ上げるわ」
「むっ・・・」
ハンデという言葉に、熱血漢のアインは反応したが、
「さすがに選挙のためとはいっても、女子に手をかけるのは心が痛むし、左之助の実力は俺たちもよく知っている・・・・・」
アインはすっと男を指差し、
「よって、相手は貴様だ」
「な、なんじゃってぇぇええええ」
「ふふふ、予想通りね」
「えええっ!」目を丸くする斎。
「・・・ん?」首をかしげる左之助。
「な、なんで、そんなに落ち着いているんじゃぁ!!」
絶叫する男を気にもせず、
「それじゃあ、私が指名するのは・・・・・・」
並んだ5人に指を滑らせ、
「あなたっに決めたっ!」
慧さまは一人を指差すとニコッと笑みを浮かべた。
第3話 了
第4話 「ωぽん、応答せよ!」に続く
☆
「あたたた・・・」
立ち上がったユカリコが反対側の手を押さえた。
あちこちに噛み傷や引っかき傷のようなものが出来ている。
「あいつら、本気でやりやがって・・・・・・イチチ・・・」
そういいながらも、何故か顔には笑みが浮かんでいる。
「大事の前の小事・・・・・・」
ユカリコはかがんで金庫のダイヤルを回して扉を開くと、中からカルテの束を取り出した。
そして立ち上がると、
「キャヴェ、待ってろよ。必ず私がおまえを蘇らせる!」
「♪あ~~かい、赤ぁいー、赤い仮面のぉ~~~♪」
どこかで聴いたような曲を口ずさみながら部屋を出て行った。
Ω○Ω「いやそれ言ったらなめ隠してる意味ないから・・・」
オメガぽ○「次回よろs・・・zzz」
○ぽん&Ω○Ω「「寝るなー!!」」
3月2日「第3話 くろねこの秘密-後篇-」をアップしました。
3月1日「第3話 くろねこの秘密-前篇-」をアップしました。
好きな作家:今野緒雪、樹川さとみ、支倉凍砂、神野オキナ等ライトノベル系作家が好きです。
好きなマンガ家:天野こずえ(ARIA、あまんちゅ)、石井まゆみ(キャリアこぎつねきんのまち)
コンチェルトゲートフォルテでは、Yukarikoというキャラ(マジシャン)をメインに使っています。