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王立ローゼンベルク学園
それは、来るべき大災厄に備えてファーレン王国が設立した研究機関にして教育機関。
フレイアの森に中に聳え立つ白亜の建物。首都ファンブルグの東門を出てひたすらまっすぐ、フレイア大陸中央部にそびえる山脈の麓にその学園は位置している。
そこでは五勇者にまつわる種々の事柄-五勇者にまつわる歴史、五勇者の持っていたと言われる戦闘技術、大災厄の謎など-の研究を行うかたわら、この世界で生きていくための技術-戦闘技術や生産技術-を授ける教育機関としての役割を担っている。
ローゼンベルク学園の保健室の中はざわめきが広がっていた。
それはまるで穏やかな水面に小石を投げ込んだように。
斎(いつき)によって連れ込まれた男を中心に、今、物語が動き始める・・・。
【記憶-喪失(きおく-そうしつ)】〔名〕頭部の打撲などの外傷や薬物中毒などのため、それ以前のある期間の記憶をなくしてしまうこと。医学的には「健忘(症)」という。〔日本国語大辞典より〕
「『記憶喪失』って医学用語じゃないんですね・・・」
ベッドの傍らで斎がつぶやいた。
「どうでもいい豆知識だな・・・」
腕組みをしたユカリコ。
「う~~む」
聴診器を耳から外したアカル先生が唸る。
「斎くんの話では相当な高所から墜落したようだが外傷はほとんどない・・・。記憶障害以外は健常人と変わらんよ」
「よっぽど身体を鍛えていて、とっさに衝撃を受け流したのか・・・」
ユカリコは目を細めた。
「何があったにせよ、無事で何よりです」
「いや、無事じゃないだろう、記憶を失っているんだから・・・」
ユカリコが突っ込むが、
「細けぇこたぁいいんです。でも本当に記憶を失っているんですか?記憶喪失の演技をしているとかではなくて?」
「演技じゃないよ」
アカル先生は首を振った。
「だったら、もう一度同様のショックを与えてみたら記憶戻りませんか?」
「ショックとは?」
ユカリコが問うと、
「高いところから突き落とすとか、手軽にやるならハンマーで殴ってみるとか?」
それまで、周りのやりとりを不安げな表情で伺っていた男はビクッと首をすくめた。
「いやですね、冗談に決まってるじゃないですか」
男の様子を見てコロコロ笑う斎に、
「なんだ・・・冗談なのか・・・」ユカリコは手にしていたナニかを後ろ手に隠した。
「おまんらぁはわしをどうするつもりじゃろうか?」
「それにしても名前が分からないと呼びにくいですね・・・」
斎は首をかしげながらあれこれ思案していたが、ポンと手を叩き
「『Dボウイ』と呼んでもいいですか?」
「まだデンジャラスかどうかわからんだろう?」
「じゃあ『ハクオロ』さん?」
「・・・仮面はどこへいったのかな?」
「料理が得意だったら『翔一君』でもいんですけどね」
「お前はサイコメトリーかっ!」
「おまんらぁ・・・」
「そういえば、平成ライダーシリーズって何気に記憶喪失ネタ多くありません?」
「記憶喪失と男女入替わりは王道だからなぁ」
「だから、聴けや!!」
たまりかねた男が大声を上げると、病室はシーンと静まりかえった・・・。
「・・・たのむから聴いちょって・・・」
振り絞るような男の声にバツが悪くなった二人は、
「コホン」
「・・・・・・」
「さて、これからどうするかですね?」
何もなかったように会話を続ける。
「当面、記憶が戻るまではここで暮らさざるを得まい・・・?であれば、まず入学手続をとらないとな・・・」
「でも入学手続をするなら名前がわからないと・・・」
「そうだな・・・記憶を取り戻す方法があればいいな・・・」
「だったら、もう一度同様のショックを与えてみたら記憶戻るかもしれませんよ?」
「ショックとは?」
「うがぁぁああああああ」
男が叫んだ。
「いい加減にしとうせ!話が進まんきに!!もうええ、わしは姓名年齢不詳、住所不定、無職で結構じゃ。呼び名も好きにしちゃれ。『福山でも『雅治』でも好きにしちゅうがよか」
「それはいかん!」
ユカリコは真顔でいった。
「貴様までボケると収拾がつかなくなる」
「そうです!自重してくださいね」
男はガクッと頭を落とした。
「取り合えず彼が何者かはおいておいて、学園で保護する手続をした方がいいだろう」
アカル先生がため息をつきながら言った。
「そうですね」
ユカリコはうなづくと
「斎、乗りかかった船だ、悪いがこいつをエントランスに連れて行って手続をしてやってくれないか?」
「わかりました」
斎はピシッと敬礼すると
「さっ、行きましょう」
手を取って歩き出した。
☆
斎は男を連れてエントランスホールに戻ると、受付嬢のアイネさんに事情を話してビジター用の入館証の発行手続をしてもらった。
「はいっ、ここに生徒会長印を貰ってきてね」
「う~ん、生徒会ですかぁ・・・あそこ苦手なんですよね・・・・・・」
「そっか・・・、斎ちゃんはヒヨコ隊だもんね・・・・・・」
「ヒヨコ隊?」
男が怪訝そうな顔で尋ねた。
「私が所属しているグループの名前なんですよ。ちょっとワケありで生徒会とはちょっと・・・・・」
斎は苦笑いした。
「ヒヨコ隊と生徒会は犬猿の仲だもんね」
アイネさんもいう。
「うむ、わしはよくわからんが、生徒会は体制側なんじゃろ?それに比べるとヒヨコ隊の方が親しみがわくぜよ・・・」
「そうですか?」
「うむっ、隊とつくものになんでか親近感を覚えちゅう」
「ありがとうございます」
斎は、ぱぁっと笑顔で応えた。
「ところで、生徒会室に行くんだったら斎さんだけでは辛いんじゃないですか?」
アイネさんが首をかしげる?
「最近は、道中の敵Lvも上がったようですよ?」
「う~~ん、それじゃあお姉さまたちにも一緒に行って貰った方がいいでしょうかね・・・?」
とぶつぶつ呟いていたが、意を決したように
「うん、やっぱり先にヒヨコ隊の部室に寄って行きましょう」
「そ、そんなに大変なのか?」
「すぐそこの時計塔の上にあるんですが、階段の途中にモンスターが棲みついてて、時々襲い掛かってくるんですよ」
「そ、それはいかんぜよ・・・」
「大丈夫ですよ、ちゃんと助っ人を連れて行きますので・・・」
二人はアイネさんに挨拶すると、中庭を抜けてヒヨコ隊のあるサークル棟に向かった。
☆
放課後の中庭は思い思いの過ごし方をする生徒達で賑わっていた。
「おお、斎ちゃん、こんちわ~」
「こんにちは~」
「斎、またね~~」
「また明日ね」
一人ひとりに声をかけながら歩く斎を、男は感心したように眺めていた。
「おんしはずいぶん人気者じゃのぅ」
「いや、そんなことありませんよ」
「すれ違うもの、みんな、おんしに声をかけちゅうが?」
「たまたまですよ」
「あ、斎ちゃん、こんにちは」
そういう側から、また声がかかった。
「あ、はこやさん、こんにちは」
両手にたくさんの木材を抱えた少女に向かってぺこりとお辞儀をする。
黄色い帽子に黄色いスカート。購買部に所属している勤労少女はこやさんだ。
「この前、頼まれた杖の修理できてるから、ついでの時に取りにきてね」
「ありがとうございます~、あとで購買部によりますね」
「うん、あの・・・」
「えっ?」
「い、いやっ・・・」
「?」
「さ、左之助さんにもよろしくねっ!」
そういうと、はこやさんは真っ赤になって駈けていった。
「どうしたんでしょうね?」
「?」
残された二人は首をかしげていた。
☆
中庭に真ん中に来たときに男は声をあげた。
「おお、これは・・・」
「ああ、これは、学園の創設に関わった人で、名前は確か・・・」
「イリウス・・・」
「「!」」
振り返ると、野球帽をかぶり眼鏡をかけた男が立っていた。
「シタン先生!」
「やあ、斎くん、久しぶりだね」
「おひさしぶりです、もうお帰りになっていたんですね」
「ああ、今回のクエストも収穫があった。新しいマテリアルを発見したよ。新種の素材になりそうな気がするよ。正確なところは鑑定してみないとわからないがね」
シタン先生は斎の後ろにいる男に目を留めて、
「おや、初めて見る顔だね・・・斎くん、そちらは?」
「空から降ってきた記憶喪失の方です」
「ほほう」
目を細めた。頭の先からつま先まで遠慮なく眺めていたが、ふっと息を抜くと
「面白い・・・落ち着いたらぼくの研究室に連れてきてくれ」
「はいっ」
「それじゃあ」
手を振りながら去っていった。
「なんか変わったお人じゃき」
「長いこと学園に留まってるんですよ」
「それって留年ちいわんか?」
「そうですね」
斎はころころ笑った。
☆
大きなドアを開けエントランスに入ると同時に、賑やかな音が聞こえてきた。
「ここがサークル棟です」
「ほほう」
会話する二人の声も大きくなる。
「なんちゅうか、賑やかなところぜよ」
楽器のチューニング音、機械が唸るような音、朗読する声、議論をたたかわす声、動物の鳴き声、破裂音に悲鳴・・・。
「悲鳴!?」
だっと駆け出す斎。
声のした方に向かうと、廊下に並んでいるドアのひとつが開いて、煙とともに奇怪なものが現われた。
「な、なんじゃ、あれは?」
男が指差す先にいたものは、背中を丸めて咳き込んでいる宇宙服に身を包んだ人物。
「げほげほっ」
「ああ・・・大丈夫ですよ、あれは普通の人ですから」
「全然、普通の格好しとらんぜよ」
「生物部のωぽんさんです」
「や、やぁ・・・」
ωぽんは、力なく手を上げた。
「ωぽんさん、また実験に失敗したんですか?」
「いやぁ・・・面目ない・・・」
「本当に!まったく兄として情けないわね♪」
「げぼげほげほ・・・兄ちゃん・・・試薬入れすぎ・・・」
また煙の中から現われたのは、ωぽんの妹のΩωΩちゃんと弟のオメガぽん。
「ちゃんと片付けないと・・・。執行部に知られたらまた活動停止になっちゃいますよ?」
「ああ・・・」
「ほんとにもう・・・」
「面倒くさいなぁ・・・zzzz」
ぶつぶつ言いながら、部屋を片付けに戻った3人を見送って、ヒヨコ隊の部屋に向かった。
☆
♪とどろけ稲妻!ひっ、ひっ、ヒヨコのマーク、わっ、わっ、我らは・・・♪
掃除をしてるというより、箒を振り回してるようにしか見えない少女が歌っている。
♪学園旋風、学園旋風 ヒヨコたい~~~、ヒヨコ隊っ、ヒヨコ隊っ!♪
ビシッとキメのポーズを取るのと同時に、ドアが開いた。
「お姉さま、いろいろな意味でダメです!」
「え~~、なんでよ~」
「歌詞は軽音楽部のヤマモト君あたりからクレームが来そうです」
「大丈夫よ、ヤマモトなら学園祭(フェスティバル)の24時間アニソンマラソンの準備でそれどころじゃないから」
「それに♪学園~旋風♪のところはお姉さまは下のパートです」
「そこかいっ!」
男が突っ込む。
「ところで、そこで突っ伏して頭抱えてるのは誰?」
「あ、紹介しますね、こちらは空から落ちてきた記憶喪失の方です」
斎は男の方に振り向くと、
「で、この人が、わたしのお姉さまでヒヨコ隊の筆頭、慧さまです。」
「ひ、筆頭??」
疑わしげな目で小柄な斎よりもさらに小さい少女をまじまじと見つめてしまう。
「なによ?文句あるの?」
慧さまはぷっと頬を膨らませるが、そうした仕草が彼女を幼く見せることに気づいていないのか。
「い、いや・・・文句ちゅうではないが・・・」
男が口ごもる。
「生徒会室に印を貰いに行くので、お姉さまたちにも一緒に行って欲しいんですよ」
「ふ~~ん、生徒会室ね・・・、いいわよ、久しぶりに『会長サマ』をからかいにいくか・・・・・・。左の字、あんたはどうする?」
後ろからいきなり一輪の花が突き出された。
驚いて振り向くと、そこには紫の虎の鎧を着た長身の男が立っていた。
180cmの男よりもさらにデカい。
その男が無言で花を一輪差し出している図はちょっぴり怖かった。
「これを・・・」
「お、おう・・・」
静かな迫力に負けて、差し出された花を受け取ってしまう。
「・・・赤いバーベナ。花言葉『一致協力』・・・」
「・・・・・・」
あっけにとられている男に、斎が紹介する。
「こちら、ヒヨコ隊の行動隊長、左之助さんです」
「こ、行動隊長・・・」
「さ~て、楽しくなるぞぉ」
「ですねっ」
「・・・・・・」
みるみるうちに不安げな表情に変わった男をよそに、3人は嬉々として出発の準備を始めた。
「それじゃあ、生徒会室に向かいましょうか?」
☆
ガガガ・・・・ピピピ・・・
「聞こえた?」
おずおずと聞く男子生徒の声。
「ノイズばっかりでわかんないわよっ!」
苛立たしげに応える女子生徒。
「最近調子悪いんだよ・・・」
つまみを回しながらチューニングをあわせようとする男子生徒に、
「所詮、壊れかけのレディオを改造したものでしょ?もう一度あの日のようにって訳にはいかないわよ?」
「ちぇっ、夢を信じていたんだけどなぁ・・・」
「わかったのは、ヒヨコ隊は生徒会室に向かうってことだけね」
「そうだな・・・会長の耳に入れておかなきゃね」
プツンと電源を切る音と同時に人の気配が消え、あとには静寂だけが残った。
第1話 了
「第2話 見廻りの恐怖」に続く
3月2日「第3話 くろねこの秘密-後篇-」をアップしました。
3月1日「第3話 くろねこの秘密-前篇-」をアップしました。
好きな作家:今野緒雪、樹川さとみ、支倉凍砂、神野オキナ等ライトノベル系作家が好きです。
好きなマンガ家:天野こずえ(ARIA、あまんちゅ)、石井まゆみ(キャリアこぎつねきんのまち)
コンチェルトゲートフォルテでは、Yukarikoというキャラ(マジシャン)をメインに使っています。