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それは、来るべき大災厄に備えてファーレン王国が設立した研究機関にして教育機関。
そこでは五勇者にまつわる種々の事柄-五勇者にまつわる歴史、五勇者の持っていたと言われる戦闘技術、大災厄の謎など-の研究を行う傍ら、異世界より招請された元勇者候補達に、この世界で生きていくための技術-戦闘技術や生産技術-を教える教育機関としての役割を担っている。
ファンブルグの東門を出てひたすらまっすぐ、フレイア大陸中央部にそびえる山脈の麓にその学園は位置している。
生徒達の開拓によってあちこち隆起していたり、樹木が生い茂っているため、学園の入り口はわかりづらくなっている。初めて訪れた人々が、入口を見つけられなくてウロウロしているのを見るのも、珍しくない。
初めて来た人は、あちこち動き回る前に、よ~く目をこらして見てほしい。
ジャングル化した丘陵地帯のとある箇所に人工の階段があるはず。
そこを下るとあなたが探している学園の正門が見えてくるのだが・・・。
★
その、学園入り口を捜してうろうろしている男がいた。
黒い帽子に同色のフード付きマントを身にまとい、手にした槍を杖代わりに使っている。
見たところ若そうなのにフラフラしているのは、疲労のせいかそれとも空腹のせいか?
「この辺に入り口があるはずなんじゃが・・・。」
男がそう言って地図を見るのはもう何度目か。
手に持った地図と顔を上げて見渡す周りの風景が全然一致しない。
これまた何度目かのため息をついた。
「ふっ、さすがは難攻不落と聞こえたローゼンベルク学園じゃ。そうやすやすと侵入させないというこらぁ」
男は勘違いしている。
繰り返すけど、別に防衛上の理由でこの辺りが樹海化しているわけではない。
生徒達が無計画に我先に採取や採掘、伐採などと開拓を繰り返した結果、こうなってしまっただけなのに・・・。
「やはり、ここにアレがあるっちゅうのは間違いないがで」
男はぐっとこぶしを握ると、
「なんとしたちアレを持ちかえって、わしらが覇権を握っちゃる。ええか、みちょれよ」
なんだか妙に暑苦しいのは周りにうっそうと茂っている樹木のせいじゃないと思う。
★
それから更に1時間。
男はブッシュの隙間にある階段を見つけて、ようやく学園の入り口についた。
「これが学園か・・・」
長かった旅を思い感慨にふける男。
一方、学園の門を守る警備兵たちは、突然現れたくたびれた男が門の前で立ち止まったまま動かなくなったのに気づき慌てた。
つい今しがた、フレイア大陸中央部に巨大な影が現れたという校内放送が流れた。
と、いうことは、つまり・・・・・・。
あわてる門番たち。
「お、おい、そこのキミ」
「そんなところに立っていると・・・」
ドドドドド・・・
「な、な、なんだこりゃぁぁぁあああああああ~~~~」
なんと間の悪いことに・・・。
巨像クエストに向かうために我先に門から走り出てきた生徒とペット達に、ぼ~っと突っ立ていた男が吹っ飛ばされたのは、ある意味当然かもしれない。
「あ、遅かったか・・・」
その光景が予想できた警備兵たちが注意をうながそうとした時、当の男は既に見えなくなっていた。
♪るるるんるんるん、るるるんるんるん、るるるんるんるんるんる~ん♪
斎(いつき)は、懐かしいメロディを口ずさみながら林の中をを歩いていた。
所属するチームの仕事でファンブルグから帰る途中なのだ。
ファンブルグへの道中は、「行きはよいよい、帰りはこわい」と言われている。
それは、学園からファンブルグへの安全に移動する方法は-転送装置など-幾つかあるけど、ファンブルグから学園へ戻る方法が-教室へ飛ぶか、徒歩で戻るか-あまりないから。
斎は飛ぶのがあまり好きではないので、至急の時以外は歩いて戻ることにしている。
10月にしては温かい気温も、最近色づいてきた森も、斎を歩かせるいい理由だった。
今日もいい天気だな~。
樹々の合間から見える秋晴れの青空が気分を明るくさせる。
その青空にふと見えた小さな点。
目をこらす間もなく、それは徐々に大きくなり、やがて大の字に手足を広げた人の形となり、
「うぁぁぁあああああ」
という叫び声まで伴って、斎の頭上に降ってきた。
「きゃっ」
声を上げて飛び退くと同時に、
ずど~~~~ん
激突音と舞上がる土煙。
「けほけほっ」
突然の落下物の難を逃れた斎は、更なる危険がないかもう一度上空を見上げ、そして穴の側に寄って恐るおそる中を覗き込んだ。
「こ、これは・・・」
慌ててペットのボルケノゴーレムを召喚した。
「弁慶、お願い」
「グモォォォオオ」
弁慶と呼ばれたボルケノゴーレムは、両手を鍬のように動かして穴を掘り広げていく。
心配そうに見つめる斎。
やがて、
「グモッ」
穴から顔を出した弁慶は両手を差し上げた。
空から落ちてきた男を抱えて・・・。
「よくやったわ。そこに寝かせてね」
「グモッ」
斎は注意深く横たえられた男の様子を見た。
墜落で全身に打撲を負っている可能性はあるが、それ以外の不審な外傷-特に切り傷や刺し傷など-は見当たらないことを確認するとほっとため息をついた。
黒の伯爵帽にフード付きの黒マント。中に着ている服はちょっと古めかしい形のものだ。
長旅でもしてきたのか全体に疲れた感じ-はっきり言えば薄汚れた感-が漂っている。
身なりからは男の正体は測りかねた。
手に握った槍から察するにナイトかランサー?それにしては鎧じゃないけど・・・。
「あなた、しっかりして下さい。大丈夫ですか?」
呼びかけにも反応しないし、やはり急いで専門家に見せた方がいいよね。
そう考えた斎は、ペットに命じた。
「弁慶、その人を保健室に運んで!この前みたいに途中で落とさないようにねっ」
弁慶が、男を持ち上げた時に、だらりと下がった腕を見て、斎は小さな違和感を感じて小首をかしげた。
その違和感を探るよりも、今はこの人を早く保健室へ運ばなくては・・・という使命感に駆られ、斎は先頭に立って駈け出した。
☆
学園の保健室は、エントランスを入った左側にある。
ここは学園の生徒の健康管理-主に怪我の治療-を一手に担っていて、責任者のアカル先生以下、各クラスから選出された保健委員と保健委員会補佐医が常駐している。
保健室が1ヶ所というのは、在籍生徒数に比べて少ないと思う人もいるかもしれないが、心配はいらない。保健室はここ一箇所だが、そのかわり保健委員と保健委員会補佐医は講義棟や練兵所にもいるので、そんなに困ることはない。
「お願いしま~す」
ペットを連れたまま保健室に飛び込んできた斎の様子を見て、中にいた保健委員たちは怪訝な顔をした。
学園内では、よほどの理由-看板として使っていたり、ペットそのものを売り物としているような-がない限りペットを連れて歩くのははしたないとされている。
特にエントランスや出張銀行の前、購買部など人の多い場所では混雑に拍車をかけるのでペットの出しっ放しは注意を受けることもある。
眉をひそめた保健委員たちもボルケノゴーレムが気を失った男を背負っているのを見て、表情を変えた。
「こっちへ寝かせて」
腕章をつけた女子の指示で男子が男を降ろしてベッドに運ぶのを見てから、斎は辺りを見渡し報告すべき相手を探した。
通常の治療程度ならそこまではしないが、今回はことがことだけにきちんと話しておかねばならないと思っていた。
斎は、奥の席に座っている責任者のアカル先生に会釈をしてから、ベッドの並ぶ隣の部屋に向かった。
よく、病院では一番頼りになるのは院長ではなく実は古参の看護師であるなどと言われている。
それと同様、学園の保健室のヌシは、実は責任者のアカル先生ではなく、その助手であったりする。
それを承知している斎は、隣の部屋に続くカーテンを開けて、薄暗い最奥に向かって声をかけた。
「ユカリコさん、いらっしゃいます?」
「・・・・・・」
「ユカリコさん?」
「んぁ?」
斎の呼びかけに応えて奥のベッドが動いた。
正確にはベッドに寝ていた人物が寝返りをうったのでベッドが動いたのだが・・・。
斎の再度の呼びかけで、ようやくベッドから身を起こす。
ベッドサイドにあった眼鏡をつけ、それでも眼を細めるようにこちらを伺っている。
やがて得心したのか、
「・・・・・・斎か、どうした?」
大きく伸びをしてベッドから降りてきたのは、アカル先生の助手、保健室のヌシと一目置かれているユカリコだった。
☆
ユカリコは保健室の助手という名目で保健室に駐在している学園の卒業生だ。
長い金髪をシニヨンでまとめ、赤いフレームの眼鏡をかけ、エミリアモデルの紺色のメイド服を着ている。
有能そうなメイドの姿とはうらはらに、口調はまるで男性-しかもどちらと言うとあまり柄の良くない男たち-かと思うくらい乱暴で、その上ぶっきらぼうでとりつく島がないのだが、ところがどっこい、話してみると実は礼節を重んじ情に厚くて面倒見がいいという、実に漢(おとこ)らしい女性として知られている。
「若い頃はヤンチャしていた」と本人は軽く言っているが、実際は学園を統べる番長だったという噂もある。
こと健康に関することだけでなく、生徒のプライベートな事柄や果ては生き方そのものまで相談に乗ってくれるので、生徒たち-特に女生徒たち-に絶大な人気を誇る保健室のヌシ、それがこのユカリコなのである。
「実は・・・」
斎は手短に男が降ってきたときの状況を説明した。
「ほぉ・・・」
まだ眠りから覚めやらないのか、ユカリコはポケットからタバコを出して咥えると、ポケットをまさぐってライターを探していたが、やがてあきらめたのか、
「ヴォルケーノ」
人差し指の先に火をともしてタバコに火を点けた。
「・・・というわけで、ここに連れてきたんですけど・・・(アイスフロスト)」
ユカリコが吸い込もうとした瞬間、
ジュッ
空中に現れた氷の粒がタバコの火を消した。
「その途中で気づいたんです・・・(タバコはいけません!)」
「ほぉ・・・(なにしやがるっ!)」
火の消えたタバコを茫然と見つめていたユカリコは、ギンと斎をにらんだ。
「HMPCEを着けてないことに・・・(保健室は禁煙ですと何度言えばわかりますの)」
現役さながらの-たとえて言うなら大舞台で見得を切る役者でも震えあがって土下座してしまいそうな-強い視線にもたじろぐことなく斎は話を続ける。
「ほほう・・・つまりそれは?(?このガキ・・・もう一度やってみるか?ヴォルケーノ)」
ユカリコは手にしていたタバコを刃皿に投げ捨てると、別のタバコを加えなおした。
「この方は学園の生徒ではないということです(ふん・・・何度やっても同じことですのよ、アイスフロスト)」
「ふ~ん(甘い!リフレクト)」
カキン
金属的な音がして、氷の粒は弾かれた。
「!」
斎の表情がピキっと引き攣った。
それを見たユカリコは満足げな表情を浮かべ、煙を大きく吸い込むと、わざと斎に吹きかけた。
「・・・よくもひとの顔に臭い煙を・・・(なので、手当をした後、ちゃんと身元を確かめるべきだと思いますの)」
「・・・いつもいつもオレのタバコを無駄にしやがって、今日び、タバコ代も馬鹿にならねぇんだぞっ!(そうだな、学園の生徒なら必ずHMPCEを身に着けてないるはずだしな)」
HMPCEとは、高性能多機能型個人用通信機器(High-performance Multiplexed Personal Communications Equipment)の略で、通称「ハンプス」といわれる通信器のことである。これは学園の生徒に無償提供されていて、メール機能のほかに、GPS機能や掲示板へのアクセス機能、地図表示機能等が内蔵されている。
と・・・、お二人さん、実際の声が心の声と逆転していますよ?
その時、立ち上がって睨みあう二人の間に、怯えた男子生徒の声が割って入った。
「あ、あの・・・」
「なんですのっ!」
「なんだっ!」
思わずハモった二人の声にさら首をすくめ、それでも彼は言わなければいけないことだけはなんとか伝えた。
「あの人、目を覚ましました・・・」
「おお、それは・・・」
「そうか!」
「でも・・・記憶を失って自分が誰かわからないようなんです・・・」
「なっ、なんですって・・・!?」
「記憶喪失だと・・・!?」
斎とユカリコは思わず顔を見合わせた。
後篇に続く
首伸びすぎるくらい待ってたぜ!
まだ話は導入部分って所なのでこれからの展開が楽しみだ。
あと、1話終わるごとに花言葉言わないとダメだぞw
今回は、構想の段階からいろいろアドバイスももらったし、また楽しい話にできればと思っています。
これからもよろしくです m(_ _)m
ところでさ、何で樽卿とかキャベさんがあれに反応するの?小梅さんならわかるんだけど・・・^^;
ついにきましたね!
そして続き早くも気になる展開w
次回気長に待ってます♪
次回も近々アップしますので、お楽しみに~♪
3月2日「第3話 くろねこの秘密-後篇-」をアップしました。
3月1日「第3話 くろねこの秘密-前篇-」をアップしました。
好きな作家:今野緒雪、樹川さとみ、支倉凍砂、神野オキナ等ライトノベル系作家が好きです。
好きなマンガ家:天野こずえ(ARIA、あまんちゅ)、石井まゆみ(キャリアこぎつねきんのまち)
コンチェルトゲートフォルテでは、Yukarikoというキャラ(マジシャン)をメインに使っています。